指導教材の紹介開く
テキスト開発秘話

- グループレッスンを中心としたヤマハ音楽教育システムでは、指導者はテキスト以外にも様々な指導資料などを併用しながらレッスンの進め方を組み立てます。
- 個人レッスン教室として展開されていたヤマハピアノ教室のテキストである「ピアノスタディ」も、 これと同じ発想で制作されていました。
- より多くの指導者にヤマハのピアノ個人レッスンメソッドを活用してもらいたい、という点に着目し、テキストの構成を再考するという形で検討が行われました。
指導者視点に徹底的にこだわった教材づくり

ピアノスタディは、ヤマハの長年積み重ねてきたノウハウを元に制作され、約20年間にわたって活用されてきました。
このテキストを更に多くの方にご活用頂けるように、ピアノレッスンの入り口となるピアノスタディ1〜3、なかよしピアノ1〜2からリニューアルへの取り組みがスタートしました。
その際には、実際にピアノスタディを使用している多くの指導者から、さまざまな意見を集約しました。
また、取り上げる楽曲についても、これまで以上に幅広いジャンルや時代を網羅するため、ヤマハ音楽振興会が所蔵する数多くの資料、データなども活用しながら選曲しています。
3つのポイントをリニューアル
検討を重ねた結果、NEWピアノスタディ、NEWなかよしピアノでは、以下3つのリニューアルが必要であるとわかってきました。
- 1指導者がそのテキストを見れば、レッスンの進め方が十分把握できる内容
- 2ピアノに初めて接する生徒でも楽しくレッスンを続けられる、デザインやイラスト
- 3豊かな音色が体験できるCDや音源データ
ポイント1 指導者がそのテキストを見れば、レッスンの進め方が十分把握できる内容

指導に必要となる情報を、譜面と同じページ内に納めました。
また、レパートリー・ワークブックの間でそれぞれ対応するページを明示。そして、CDでは何曲目に入っているか、なども全て同じページ内で確認できるようになっています。
ポイント2 ピアノに初めて接する生徒でも楽しくレッスンを続けられる、デザインやイラスト

レッスンを受ける子どもたちが、まず音楽に親しみ、ピアノが大好きになってほしい。
そのための入り口として、レパートリー曲ではフルカラーのイラストを使っています。
イラストのテーマや雰囲気も、1曲毎に吟味を重ね、ページをめくることが楽しくなるような内容になっています。
ポイント3 豊かな音色が体験できるCDや音源データ

ピアノでの演奏はもちろんですが、エレクトーンを活用したオーケストラ伴奏なども収録しました。さまざまな音色を体験し、より容易にその曲の豊かなイメージを持って演奏していただける内容になっています。
エレクトーン演奏では、ヤマハ音楽振興会に所属するエレクトーンプレイヤーによる多彩な音色を活用した演奏を収録してあります。
この演奏のレジストレーションデータが欲しい!というご希望が寄せられるほどご好評を頂いております。
スタッフによる制作秘話
すべての人が音楽に感動できるテキストが出来上がったと思います。子供たちの心の栄養になればいいですね。
生徒は1人1人個性や能力が違いますし、先生方も音楽的価値観が異なっていることでしょうから、なかなかテキストの中身を決めることが出来ませんでした。
良い音楽は生徒を成長させる。良い曲をたくさん弾かせてあげたい、と強く思っていたのですが、音楽的内容を追求するとテクニックが難しくなってしまいます。いいと思って選曲しても、しばらくして見返すと、「このレベルでは弾けないよね!」となって選曲をやり直すことたびたび。安易に考えれば新作曲、アレンジ曲で済ませられるところですが、作曲家として歴史の中で認められた人の曲でテキストを構成するとの意思を強く持って、必死に曲を探しました。(おかげでずいぶん勉強になりましたが…)
音楽に飽きないように選曲して曲を並べたつもりです。すべての人が完璧に弾きこなすことが出来なくとも、すべての人が音楽に感動できるテキストが出来上がったと思います。子供たちの心の栄養になればいいですね。
旧ピアノスタディの精神は残しつつ、本格的なピアノ教育用のまったく新しいテキストを作ろうと私達は日夜努力してきました。
ピアノスタディの仕事をさせて頂き約30年。時の移ろいの速さには驚くばかりです。まったくの初心者として数曲の指使い決めを担当させて頂いた最初のスタディ。研修等を任されるようになり「日本のピアノ教育を変えていく!」という強い思いを全国でお話させて頂きました。そして指導書を中心により多くのことに参加させて頂いた前回のテキスト改訂。益々充実したその内容を私達指導スタッフ全員、自信を持って広めてきました。
そして今。インターネットなどの本格的な普及、世の中の変化など敏感に反応し、新しいテキストを作成する!という思いのもと、2年前にNEWピアノスタディ1〜3、そして今回NEWピアノスタディ4〜7を出版させて頂きました。テキスト発刊までの仲間達の素晴らしい仕事ぶりに感銘を受けつつ、今までずっと皆と共に歩んで来たことを誇りに思い、心から感謝しながら仕事をさせて頂きました。
今回のコンセプトは「テキスト改訂」ではなく「テキスト作成」。旧ピアノスタディの精神は残しつつ、本格的なピアノ教育用のまったく新しいテキストを作ろうと私達は日夜努力してきました。どうしたら生徒が上達するのか、奏法にこだわりレッスン出来るよう考え抜かれた選曲。全曲の練習法を明確に提示するためのドリルなど、明らかにテクニック指導面での充実が図られています。何十回も会議を重ねる中、私では考えもつかないユニークな発想や手法を鮮やかに提示してくる仲間達に目を丸くしながらも、普段個人でしか仕事をしていない自分の弱さ、チームプレーの凄さなどを体験できたことを心から感謝しています。何十人もの専門家の叡知、感性を集積させ完成したNEWピアノスタディ。使えば使うほどその素晴らしさをご理解頂けると思います。
多くの方がこのテキストを使われることにより、感性豊かで美しいテクニックを持った子供達が、数多く育ち羽ばたいて行くことを心より願ってやみません。
当時は、著作権等の問題で、限られた作曲家の作品しか入れることができなかったのです。
レパートリー曲を選曲するにあたって、今回、近現代曲を新たに見直す絶好の機会でした。旧ピアノスタディが発刊された当時は、著作権等の問題で、限られた作曲家の作品しか入れることができなかったのです。
それから時を経た今、バルトークやグレチャニノフなど、優れた作品をもつ作曲家の曲を選ぶことができるようになりましたので、今回のレパートリーでは近現代曲にも新しくいろいろな曲が加わりました。
レパートリー4巻のチャレンジピースである「ニワトリをつかまえろ!」の原語標記の題を直訳すると「ヘイ、去年産まれた2羽のニワトリよ!」という題なのです。おいしそうな若鶏をご主人様が捕まえようとし、そこから焦って逃げ回るニワトリの様子が、この作品と題から鮮明にイメージできますね。この曲はハンガリーの曲なのですよ。
NEWピアノスタディ6、7の完成も間近に迫った2013年春、ある日のPSTA本部スタッフ会議にて
本日の会議は音出しチェックのため、朝から1日中使えるピアノ部屋はやや薄暗い地下のスタジオ。スタッフ全員が集まり、昨夜遅く出版社から届けられたばかりの最終校レパートリー曲の楽譜を、特に目と耳に神経を集中させて1曲ずつ厳しく校正作業を行っていました。
室内の様子は、1人がピアノに座り、刷り上がってきた楽譜に書かれていることを、正確にそのままの状態で弾く。他のスタッフは、同じ楽譜を片手に、指導者の立場で、あるいは生徒自身の気持ちになって、または保護者の立場に身を置いてなど、いろいろな角度から検討を重ねる。自分たちが責任を持って楽譜に記載した情報に間違いはないだろうか?指使いやアーティキュレーション、ダイナミクスやフレージングの位置、音符・休符・五線のかすれに至るまで、楽譜のすみずみまで目を光らせ、1曲ずつ時間をかけてチェックしていくというものでした。
ソロ曲のチェックは順調に進み、次は連弾曲の番になりました。1曲目の連弾曲も、最初にⅡパートだけの音出しチェックが終わりました。
「持っちゃん、上つけて!」…。
やおら椅子から立ち上がった持田スタッフ。グランドピアノとは反対側の出入り口に向かって歩き出す。…ん?
そして入り口の壁にある電気のスイッチ(2つあるうちの上の方)に手を伸ばしている…。
「違う、違う!持っちゃん! 上のパート、Iパートのメロディー!」(笑)